大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)650号 判決 1976年1月30日
控訴人・附帯被控訴人 国
訴訟代理人 上田隆男 山口修弘 ほか七名
被控訴人・附帯控訴人 栗田実 ほか一三名
被控訴人 今栄和行
主文
原判決中、一審被告敗訴部分を取消す。
一審原告らの請求を棄却する。
一審原告今栄和行を除くその余の一審原告らの本件附帯控訴を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じ、一審原告らに生じた費用を当該原告に負担させ、一審被告に生じた費用の一〇分の九を一審原告らに均分負担させる。
事 実 <省略>
理由
一 一審原告ら主張の原判決事実摘示にかかる請求原因一、の事実は、灘郵便局長のした本件各訓告処分が違法であるか否かの点を別とすれば、すべて当事者間に争いがない(要するに、灘郵便局に勤務する郵政省職員-公共企業体等労働関係法二条一項二号イ所定のいわゆる現業国家公務員-である一審原告らはその所属組合である全逓の指示に基き、各勤務時間中に、原判決別紙二の一のとおり「さあ! 団結で大巾賃上げをかちとろう」と記載した巾三糎、縦一〇糎の黄色リボンを着衣の胸附近に着け、また、一審原告らのうち栗田、西北の両名はそのほか全逓灘郵便局支部役員として原判決別紙二の二のとおり「全逓、灘郵便局支部」と記載した腕章を着け、執務した。そこで、灘郵便局長は局内掲示板に「警告書」を掲示し、また、局内放送により、右勤務時間内におけるリボン等の着用が就業規則に違反し違法である旨一般的な警告をしたうえ、一審原告ら各自に対しそれぞれの直属上司を通じて個々に口頭および文書をもつて右リボン等の取外しを命ずる職務命令を発した。しかし、一審原告らは、右職務命令は労働権に干渉する違法な命令であるとしてこれに応ぜず、勤務時間中におけるリボン等の着用を続けたので、局長は、最終的に、一審原告らを訓告処分にした。処分事由は、一審原告らの前記各所為が郵政省就業規則二五条((服装規定))、同二七条((勤務時間中の組合活動禁止規定))、五条二項((職務命令遵守義務))に違反する、というものであつた。なお、右規則文言は原判決別紙三のとおりである。概要以上のような事実関係)。
しかして、<証拠省略>によれば、灘郵便局長のした本件各訓告処分の法的根拠は、当時施行され、かつ、一審原告らを拘束する郵政省就業規則一一六条「職員は、過失があつた場合には、郵政部内職員訓告規程(昭和二十五年七月公達第八十三号)の定めるところにより、訓告されることがあるものとする。」および、これを受けた郵政部内職員訓告規程「1部下職員に過失があつた場合、その軽重を審査し軽微であつて、懲戒処分を行う範囲内のものでないと認めるときは訓告する。2訓告は、郵政省の内部部局、地方支分部局及び附属機関の長が行う。3各部局及び機関の長に対する訓告は、前号にかかわらず、その所轄の長が行う。」の定めに基いたものであつたことが認められる。一審原告らは、当審において、右就業規則には多くの解釈通達があり、右通達につき労働組合の意見聴取がないから、規則自体労基法(九〇条)違反の疑いが強い旨主張するが、右主張自体概括的であり、必らずしも確定的な主張と受け取れない節もあり、また、労基法その他の法律ならびに本件の全証拠によつても、規則全体を無効と解さなければならない事由はこれを見出すことができない。また、訓告に関する前記規則一一六条においては、訓告は別に定められた訓告規程に基く旨定めてはいるけれども、右規程は前記のとおり本件就業規則が定められた昭和三六年二月二〇日には既存のものであつたことが明らかであるから、右一一六条をもつて特段白紙委任条項であるということはできず、もとより一審原告らの前記主張に当る違法な定めということはできない。
二 そこで、灘郵便局長が一審原告らに対してした本件訓告処分の処分事由の存否について検討する。
1 (一審原告らの本件リボン等の着用が勤務時間中の組合活動であるか否かについて)
一審原告らを覊束する郵政省就業規則(以下、単に規則と略称する。)二七条によれば、あらかじめ所属長の承認を得た範囲内において、(イ)交渉委員又は説明員として、団体交渉又はその手続きを行なう場合、(ロ)苦情処理機関の委員又は当事者として、苦情処理又はその手続を行なう場合を除き「職員は、勤務時間中に組合活動を行なつてはならない。」旨定められていることは当事者間に争いがない。
しかして、一審原告らの勤務時間内における本件リボン等の着用がその所属する全逓の組合活動としてなされたものであることは一審原告らの自認するところである。すなわち、全逓は昭和三九年の春季闘争の要求として六千円の賃上げ、年度末手当〇・五カ月分支給等の要求をかかげ、各下部機関に要求貫徹のための諸行動をとることを指示したところ、その兵庫地区本部においては、これを受け、各組合員の意識向上のためリボン戦術を実施することを決定、勤務時間内にこれを着用することを指示した。一審原告らの本件リボンの着用は右指示に基くものであり、一審原告栗田、同西北の腕章着用は右の実施を徹底させるため全逓灘郵便局支部役員としてしたものである。以上の事実は当事者間に争いがない。また、<証拠省略>を総合すると、右全逓兵庫地区本部の採用したリボン戦術は、第一に組合員の闘争意識および組合員相互の連帯感を高め、第二に当局に対し組合の要求貫徹を示威し、第三に第三者に対し組合の要求を周知せしめ、これが支援を求めることを目的としたものであり、同本部はリボンを一括発注して各組合員に配布し、昭和三九年一月二四日には傘下各支部に対し書面をもつて全組合員はこれを必らず勤務時間内に着用し、当局上司からその取外し命令が出されても拒否することを指令したものであることも認められる。
以上の事実関係によれば、一審原告らの本件リボン等の勤務時間内着用はその所属組合である全逓の指令により前記のような組合の目的を達成するため一斉になされた組合活動であること明白であるから、前記規則二七条に違反するものといわなければならない。
一審原告らは、右規則は、労働者が労務の提供中これと矛盾し、これを阻害する組合活動を禁止するものであつて、労務の提供上何らの現実的障害を与えない組合活動まで禁止したものではない旨主張し、右の主張は、これを具体的に言えば、職場離脱、職場在席中断による組合活動等にかぎりこれを禁止するものであるとの趣旨をいうものであると解されるところであるが(<証拠省略>参照)、前記規定を所論のように勤務時間内組合活動のうち右のように限定された場合にかぎりこれを禁止した規定であると解することは、その文言解釈としても困難であり(同条がことさら明文をもつて前記(イ)(ロ)のような例外の場合を定めた趣旨も没却される。)、また、そのように解さなければならない合理的な理由もないと考える。
すなわち、一審原告ら郵政省の職員は「郵政事業の使命を認識し、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、かつ、職務の遂行にあたつては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」義務があるのであつて(国家公務員法九六条一項および規則五条一項参照)、規則二七条は、右の義務を組合活動との関係の側面から明らかにし具体化したものと解され、それは、一般的な組合活動の自由を前提としながら、ただ、「労働者は勤務時間中に組合活動をしてはならない。」旨の労使関係上従来から一般的に承認されている原則を謳つたものにほかならないのである。もし、右原則規定を、一審原告ら主張のように、業務の正常な運営を阻害する勤務時間内組合活動のみを禁止するものであるというのであれば、それは、まさに争議行為を禁止した規定と解さなければならず、前記規定の趣旨を離れるばかりか(労働関係調整法七条所定の「争議行為」の定義参照)、実際問題としても、争議行為にいたらぬ組合活動の多くのものが勤務時間内でもこれをすることが許容される結果ともなり、前記原則に照らし不当である。本件の事案において、一審原告らが勤務時間内組合活動としてした本件リボン等着用行為は、それ自体瞬時に終了したものであつて、特にその時点において郵政省の正常な業務の運営を阻害したものということはできず、また、個々の組合員がリボン等の着用を完了し、これを継続している間においても正常な労務を提供することが十分に可能であつたことは、一審原告ら所論のとおり必らずしもこれを否定し得ないところである。しかしながら、本件リボン等の着用は、上司の取外し命令を拒否する決意の下に前記のような組合活動目的を客観的持続的に表明し、組合員が互いにこれを確認し、当局および第三者に示威する趣旨の精神的活動を継続したものにほかならないから、これによつて具体的にどのような業務遂行上の支障を生じたかを問うまでもなく、右は、それ自体本来の職務遂行に属しないのはもちろん、郵便業務の秩序ある正常な運営と相容れぬところの積極的な職場秩序攪乱行為であつたと断ずるを相当とし、勤務時間内における組合活動禁止と職務専念義務を定めた就業規則の趣旨に抵触することが明らかである。
また、本件の場合、使用者が賃金の支払いを遅延しているのに対抗し、組合員があえて就業時間中にこれが履行を要求してなす組合活動のように、公平の原則上、緊急の場合としてその組合活動を正当と認めなければならないような例外的な場合ともいい難い。
次に、一審原告らは、本件のようなリボン等着用による勤務時間内組合活動は従来から労使慣行として許容されてきた旨主張し、<証拠省略>を対比綜合すると、全逓の組合員は、かつて、一審原告らの本件リボン等着用以前、同旨の組合活動をした例があり、それは昭和三六年から同三八年にかけて、青森、栃木、長野、滋賀、高知、福岡各県内の一局または数十局がこれを行ない、右に対して郵政当局からの処分その他の制約的行為も格別なかつたことが認められるけれども、この程度の事例だけで、郵政省と全逓との間に労使慣行として本件のようないわゆるリボン戦術が許容されるという労使慣行が定着していたと認めることは困難である。かえつて、<証拠省略>に前記各書証を綜合すると、全逓では灘郵便局所属の一審原告らが本件訓告処分に付された事態を重視して、はじめて、その後に全国的規ぼでリボン戦術を採用したのが実情であることが認められる。
また、労組法二条二号但書によれば、一定の場合、すなわち、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許す場合においても、当該労働者の組織する労働組合は労組法所定の労働組合として同法の適用を受ける旨定めているところからすれば、同法は、使用者が許す場合には労働時間中における一定の組合活動も容認されうることを前提としていることは一審原告らが当審で主張するとおりである(当審での主張二(1)の(ロ))。しかし、右法条は、使用者がこれを許す場合にかぎつて、一定の勤務時間内組合活動を認めたものに過ぎないこと明らかであるから、右法条を根拠として、本件一審原告らの前記勤務時間内組合活動を正当化することができないことは多言を要しない。
以上のとおりであるから、一審原告らの本件リボン等の着用は規則二七条に違反する。
2 (一審原告らの本件リボン等の着用が服装規定に違反するか否かについて)
まず、規則二五条一項に「職員は、服装を正しくしなければならない。」旨定められていることは当事者間に争いがない。
思うに、右の規則において、何が「正しい」服装であるかは、ひつきよう、一種の価値概念解釈の問題であるから、規定自体によつて具体的な当該服装が正しいものであるか否かを一義的に判断することは困難である。その判断にさいしては、右のような規則が定められた趣旨、目的を考え、社会通念に照らして綜合的にこれを解釈するほかないと考えられる。
そこで、按ずるに、一審原告ら郵政省所属の職員は、国家公務員として、国が独占する郵便の役務、郵便貯金事務その他の郵政業務に従事するものであつて(郵便法、郵便貯金法等参照)、その使命を認識し、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、かつ、全力を挙げて職務に専念すべき義務を負つていること前記説示のとおりであり、ひいては、右のような義務を遂行するため、一定の職場規律または秩序を遵守しなければならないものである。しかして、およそ人の服装はこれを着用した人の態度を客観的に具現する側面をも有するのであるから、ここに「正しい服装」とは、上来説示の趣旨に副い、これにふさわしいものを指称しているものと理解しなければならない。
まず、一審原告らの本件リボン等の着用は各自の着衣の胸部分(リボン)または腕部分(腕章)にこれらを付着させるものであつて、その着用は「服装」の概念に含まれると解される。しかして、右リボン等の着用は、その表示において、または着用自体において、特に他人に嫌悪または卑わいの情を催させるとは言い難く、また、広く一般に、非道徳性をもつて非難問責すべき点があるとは思われないことは一審原告ら所論のとおりである。この点に関して、一部特定人の労働組合または労働運動に対する主観的な好悪の情をしんしやくすることは、いずれに左袒するにしても、相当でない。しかし、前記のような郵政省職員の使命および義務に照らし、職場内の規律が保たれ、もつて、公正な態度で国民から託された職務に専念するにふさわしい服装であるか否かの観点から判断するならば、本件リボン等の着用は、正常な業務の運営に無関係、不必要なものであり、また、規則二七条に違反する勤務時間内組合活動の具体的な実行行為としてなされた服装にほかならず、結果として勤務時間内の職場規律を乱すものというほかないものである。したがつて、右リボン等の着用は正しくない服装であり、規則二五条一項に違反するものといわなければならない。郵政省には右二五条一項の解釈指針として、「『服装を正しく』とは、社会通念により解釈される。ここでは他人をして嫌悪または卑わいの情を催させるような服装を避けるべきことを意味する。」旨を述べた運用通達の存することは一審原告ら主張のとおりであるが(<証拠省略>)、右の解釈は限定的に過ぎ、妥当でなく、規則の合理的解釈にさいし、裁判所が右のような通達に拘束されなければならないいわれはない。
一審原告らは、当局も従前から職員に対し本件リボン等と同種同形同色のリボン、腕章の着用を命じており、本件リボン等の着用のみを正しくない服装として禁止することは承服しがたい旨主張し、<証拠省略>に弁論の全趣旨を綜合すると、郵政省ではこれまで業務成績の向上を計る目的で職員に対し本件リボンとほとんど同形同色のリボンで「簡易保険新加入運動」「郵便貯金五千億円突破」等と記載したものを着用させたことがあることを認めることができる。しかし、本件リボン等の着用が正しい服装であるかどうかは、単にその外形のみによつて判断すべきものではなく、記載文字等によつてその着用が一定の目的を持つた意味ある行為であることを考えて綜合判断する必要がある。当局が命じた前記リボンの着用は郵政職員がその地位においてなす業務遂行上のものであるから、これを本件の場合と同一に評価できないことは明らかである。一審原告らの前記主張は採用することができない。
以上のとおりであるから、一審原告らの本件リボン等の着用は規則二五条一項にも違反するものといわねばならない。
3 (一審原告らが局長の本件リボン等取外し命令に応じなかつたことの適否について)
規則五条二項によれば「職員は、その職務を遂行するについて、法令及び訓令並びに上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」旨定められていることは当事者間に争いがない。
しかして、一審原告らの本件リボン等の着用が規則二七条および二五条一項に違反すること上来説示のとおりであるから、これが取外しを命じた局長の職務命令はもとより適法であり、一審原告らはこれに忠実に従う義務がある。
そうすると、一審原告らがその上司である局長の本件リボン等取外し命令に従わなかつたことは、爾余の判断をなすまでもなく、規則五条二項に違反するものである。
以上のとおりであるから、灘郵便局長が一審原告らに対してした本件訓告処分の処分事由はいずれもこれを肯認することができる。
三 そこで、さらにすすんで、訓告処分自体の適法性の存否について検討する。
本件訓告処分が規則一一六条およびこれを受けた郵政部内職員訓告規程に基いてなされたことは冒頭一で認定したとおりであり、これに、一般に、訓告処分は、公務員に科する制裁的性質を有する懲戒処分とは異なり、上司の部下職員に対する監督上の実際的措置にすぎないものであつて、該処分が全く事実上の根拠に基かないと認められる場合であるか、もしくは、社会観念上著しく妥当を欠くような場合を除き処分権者の裁量によつてなされうるものと解すべきである点を綜合すると、本件訓告処分は、前記のような一審原告らの所為(作為および不作為)に照らし、適法にして相当であると考えられる。
(1) 前掲規則および規程によれば、その文言上、訓告処分は「過失があつた場合」になされるべき旨定められていることは一審原告らの主張するとおりであるところ、一審原告らは、本件リボン等の着用はそれが正当であると確信してしたものであつて、過失によつて着用に及んだものではないから、訓告処分を科することはできない旨主張している。しかし、先に説示した訓告処分の一般的な法的性質、および右規程が「その軽重を審査し軽微であつて、懲戒処分を行う範囲内のものでないと認めるとき」に訓告する旨定めており、これによれば訓告処分の対象は、いわゆる故意行為の場合を含むこと明らかな懲戒処分の対象と競合し、ただその軽微な場合を想定していることが明らかである点(国家公務員法八二条、規則一一四条参照)に照らすと、ここに「過失」とはいわゆる故意行為に対置する意味の過失行為のみをいうものではなく、これらの双方を含む非違行為一般を指称するものと解するのが相当であるから、右一審原告らの主張は失当である。
(2) 一審原告らは、従来郵政省の労使間では本件リボン等の着用のごときは労使の慣行として容認されていたものであるから、今回にかぎりこれを訓告処分の対象とする場合には、あらかじめその理由について合理的な説明を行なうべきが当然であるところ、局長は何らこのような手続を踏まなかつたもので、この点において本件訓告処分には手続上の瑕疵が存する旨主張する。しかし、一審原告らが主張するような労使慣行が認められないことは既に説示したとおりであるから、右の主張はすでにこの点において前提を欠くものである。また、訓告処分権者が訓告に先だち被訓告者に対しあらかじめその理由を説明しなければならないとする法的根拠および合理的理由もこれを見出すことができない。いずれにしても、右の主張は失当というほかない。
(3) 郵政省においては、一般に、職員の過失事故(非違行為)に対し、処分を行うときはその職員から事案のてん末を記述した自筆の始末書を徴取しなければならない旨の通達一〇条(一審原告らの主張二(ホ)(b)-原判決九枚目裏末行から同一〇枚目表五行目まで-参照)が存するのに、本件訓告処分にさいしては、局長は一審原告らから何ら始末書を徴しなかつたことは一審被告もこれを争わないところである。しかして、一審原告らは右の点にも手続上の違法がある旨主張する。しかし、一般に、始末書提出制度は当該職員の非違事実の存否について慎重にこれを確認するために設けられたもので、処分権者が自らまたは他の第三者の現認報告に基き非違事実を確認することができる場合は必らずしも当該職員から始末書を徴さなければならないものではないと解すべきである。局長が本件訓告処分にさいし始末書を徴しなかつたことをもつて違法ということはできない。
(4) さらに、一審原告らは、前記通達五条(一審原告らの主張二、(ホ)(c)-原判決一〇枚目表六行目から同裏六行目まで-参照)に基き、本件リボン等の着用が非違行為であるのであれば、局長は訓告処分に付するよりもむしろ懲戒処分に付するべきであるのに、あえて訓告処分とした点において違法である旨主張する。しかし、前掲職員訓告規程によれば、懲戒処分と訓告処分の対象は競合するものであり、そのうち軽微であるものを訓告処分とすることを原則としていることは既にみたとおりであつて、処分権者がその裁量に基き事案の情状に照らし重き懲戒処分を避け、軽き訓告処分としたことは何らこれを違法とすべきことではない。一審原告らの援用する通達五条も右の趣旨を超え、これを否定するものではないと解すべきである。一審原告らの右の主張は採用のかぎりでない。
四 以上のとおりであるから、灘郵便局長が一審原告らに対してした本件訓告処分はその実体上、手続上適法であり、右処分をもつて国家賠償法一条所定の公務員による違法行為と目することはできないものである。
よつて、一審原告らの本訴請求は爾余の判断をなすまでもなく失当として棄却すべきであり、原判決中、一部これを認容した部分は一審被告の控訴に基き取消しを免れず、一審原告今栄和行を除くその余の一審原告らの本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担については、共同原告らのうち一部の者がすでに訴を取り下げたことを考慮に入れ、民訴法九六条、九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 井上三郎 戸根住夫 畑郁夫)